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写植の現場から
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 出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくための不定期コラムです。
 みなさまのご意見、ご感想をお寄せください。

印刷物とPDFはどこまで共存していけるか

(株) Station S 出版企画部 岡田隆志

●PDFの浸透

 今回はテーマがかなり大がかりです。なるべく大きくふくれあがらないように、印刷物に関わることにとどめていきます。

 97年、Adobe Acrobat3.0Jが発売された直後から、WebやDTPに敏感な出版関係者は革命的出来事のようにPDF(Portable Document Format)をとらえ、ビジネスに結びつけようと研究・活用が始まりました。
 現在では解説書も書店に多く並ぶようになりましたし、「PDFとは何か」ということを出版・印刷業界関係者に説明する必要がなくなるほどPDFという名前は浸透しています。
 そして今でも出版のあり方を変える起爆剤としてその地位を誇っているように見受けられます。

 このコラムをWebで読んでいらっしゃる方でPDFのことを知らない方はあまりいないとは思いますが、より詳しく知りたい方のために、参考となるURLを紹介しておきますので、ごらんになってみてください。

(紹介したURIはすべてリンク切れになってしまったので割愛させていただきます。)

   Adobe Acrobat(PDFを作るためのソフトウェア)がどのぐらい売れているのかという実数は公表されていないのでわかりませんが、浸透度や話題性、事例などからかなり売れているのではないかと思います。
 なかでも特に売れているのではないかと言われているのは、一般企業内で資料・カタログ・説明書などの文書を制作・管理している部署です。ビジネスワープロで作られた文書を電子メディアで流通させるために、PDFは非常に有効な形式ですから当然といえば当然の結果かもしれません。
 次は編集プロダクションでしょうか。印刷物・Web・CD-ROMを同時に作って配信できる、いわゆる「ワンソース・マルチユース」を実際に行える部署にとってPDFはある意味、革命をもたらしたといえるでしょう。

●印刷物とそのPDF化

 印刷物を作るためのDTPデータをそのままPDFにして配布している事例もWebではかなり多く見受けられます。
 PDFがWebで流通しだしたころのいちばん手軽な文書配信方法として最も多く使われた方法ですし、今でもそれが主流となっていることは間違いありません。
 このメリットは、レイアウトの同一性、情報発信の即時性に加え、印刷用データを再利用できる点、そして、ハイパーリンクやマルチメディアデータを追加できる点でしょう。印刷物として完成しているものに、さらにインタラクティブな要素を付加してWebやCD-ROMで配信できるのです。
 このような文書形式が今以上に浸透していったら、紙の出版物が減り、売れなくなるかもしれないという危機感もあって、Webやマルチメディアに関心を示さないで過ごせた出版・印刷関係者も、ことPDFに関しては他人事として放っておくわけにはいかなかったのです。

 とはいえ、実際にPDFコンテンツならではの効果を得るためには、そのためのワークフローを確立しなければならないことも認知されてきたせいか、印刷・出版界のPDF熱はやや下火になったようにも見受けられます。
 ただし、DTPを採用している編集の現場では出版物そのものの企画からワークフローを練り直してPDFの位置づけを見なおしているようですし、Acrobatのプラグインも最近多数出てきています。企業内印刷物を作っている部署はワープロで作った文書をPDF経由でフイルム出力をしているケースも増えてきました。
 ですから、印刷・出版関係者は今後ともこのPDFの動きを「やり過ごす」わけにはいかないことだけは確かです。

●PDFにどういう価値を認めていくか

 紙、デジタルコンテンツも含めた広義の「出版(パブリッシング)」の世界においてPDFが内包している将来性・拡張性ははかりしれないものがあります。
 利用の方法もさまざまで、PDFの利用価値をどこに見いだすかによって文書の制作過程から急速に多様化してきています。
 Webで配布する目的ならばひとつのPDFファイルのサイズを慎重に決定しなければいけないでしょう。CD-ROMで配布する際にも印刷物(例:取扱説明書)と同じ扱いとして配布するのか、レイアウトを崩したくないカタログのようなものとして作るのかを考えなければならないでしょう。
 パソコンのディスプレイで見ることを前提にするのならば、htmlとの差別化を図りながら判型からレイアウトを作り直す必要が出てくるかもしれません。
 家庭用プリンタでプリントアウトされることを前提にするのか、印刷用データとして利用するのか、校正用データとして利用するのか、プレゼンテーションツールとして利用するのか、データベースとして利用するのか、PDFコンテンツそのものを商品にしてしまうのか……などなど、利用形態のあまりの豊富さにめまいがしそうです。
 「ワンソース・マルチユース」というのはあくまでも理想で、目的に応じてレイアウトもワークフローも考えなければならない局面にさしかかっているのです。

●印刷のワークフローのなかでのPDF

 そんななかで印刷物との共存を考えたときにPDFはどういった役割を果たし、出版・印刷業界にどんなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。

 実は私が働いている写植の現場の周辺ではPDFの制作事例はまだありません。ですから現実味ある話はできないことをお許しください。
 ですが、編集サイドからはデジタルデータの保管や再利用についての問い合わせはたくさんあります。写研のSAMPRAS-Cによる集版システムでは、マルチメディア活用のために同システムで作った写植のデジタルデータをSGML、HTML、PDF形式で出力することに対応しています。PDFで試験的に出したことがありますがなかなか良好な結果が出ています。
 また、ExcelやAccessで作ったデータをそのまま写研コードにコンバートし、SAPCOLのコーディングでデータベース出版ができるシステムもありますので、当社でもお客様の要望に応じて対応することが可能です。
 それ以前に出版・製版にかかわる現場一般でやや問題になっているのは、ページ組版に関する著作権がどこに帰属するのかというところで……。いわゆるデザインや版権とは別に、オペレーションの結果としての組版や製版に関する著作権がそもそも存在するのかというところから議論していく必要があったりしまして、一筋縄ではいかない事情があります。今後は組版結果としてのデジタルデータをどういう形で保管し、再版時にどういう形で権利が発生するのかを含めた契約を結んでいかなければならないでしょう。このコラムをお読みのみなさんの周囲ではどんな風に処理なさっていますか? そのあたりの問題をクリアしていく時期に業界全体がさしかかっているといえましょう。

●校正ツールとしてのPDF

 ちょっと話がずれてしまいました。PDFの話に戻します。
 出版・印刷の現場でPDFが制作ワークフローの中で果たす役割はとても大きいはずです。
 デザイナーと編集者の間、編集者と著者の間、編集者と組版オペレーション会社など、それぞれの場面でPDFが活躍する場面は実にたくさんあるように思われます。
 特に注目されるべき点は「校正ツール」としての役割でしょう。
 レイアウトの確認や打ち合わせ、著者による文字校正や編集者の校正などはレイアウトが変わらないという点で大変有効です。
 実際、私が個人的に作っている芸能ミニコミ誌ではPDFファイルを電子メールの添付ファイルとして送り、誌面のレイアウトの確認や、取材先へのプレゼンテーション用の資料として利用しています。遠方にいるスタッフの手元にあるプリンタで印字すればFAXよりも精細に印刷できますし、双方のマシンにAcrobatがあればPDFにメモを貼ってPDFだけで校正もできます。
 このように印刷物の校正用ツールとしてPDFを活用しようと思うと、書体の問題が生じます。PDFに2バイトフォントを埋め込めない現状では、フォント環境はマシンごとに揃えておかなければなりません。それならばいっそのこと、フォントもアウトライン化したほうがより正確な校正ができるでしょう。となれば、写研のプリプレスシステムを通しているワークフローでもPDF出力ができますし、フォント(写植文字)は画像として扱われますので、外字などの文字化けの心配をせずに純粋な校正ツールとして利用できます。

●PDFが活躍できる場所

 出版・印刷の現場でPDFが活躍できる場所となると、今挙げた校正ツールとしての役割のほかにもたくさんあります。
 最初から印刷物とPDFとを同時に出版していく意図をもって企画・デザインされている出版物はPDFでも読みやすいはずですし、進行中にも出版後でもPDFが活躍できる場面はさらに増えてくるでしょう。
 カタログや説明書など、必要なページだけをプリントアウトするだけで間に合うものはPDFで配布してあえて印刷物にせず、必要に応じてオンデマンド印刷のみに対応するという場合もありそうです。
 もともと印刷物にもPDFにもする予定がなかった、Windowsマシンで作られたビジネス文書も、PDFを経由すればトンボや分版プラグインを使って立派な印刷物になり得ることでしょう。

 それぞれの局面で高品位なものを作ろうとすると、出版や印刷、製版に関するノウハウが必要となることは仕方のないことですが、以前と比べれば著者・編集者側が少ない知識で多くの印刷効果を得られるようになりました。
 それを実現させているのは、実は出力センターや印刷会社の陰のサービスであったり、PDFプラグインだったりするのですが、そこにビジネスが成立する余地はまだまだたくさんあるように感じます。現場のみなさんはいかがお感じでしょうか。実際にはコストが圧縮されて結果的に損だ、というつぶやきも聞こえてこないわけではないのですが(苦笑)。
 ただ、最終的に印刷物にしていく過程でPDFを「校正ツール」として機能させることによる恩恵ははかりしれないものがあります。ただその恩恵を受けているのは現状としては、インターネットが完備されているフットワークの軽いデザイン事務所や小規模な編集プロダクション、大手だとコンピュータ関係の雑誌や書籍を作っている部署ぐらいなのかもしれません。
 「写研のPDFはテキストが画像になるから扱いづらい」といった声も聞いたことがあります。確かに不便な面はありますが、発想を逆転すれば、美しい写研のフォントによる高品位なPDFを制作するという意味では他との差別化が大いにはかれることは間違いありません。そんなPDFはWebで見たことありませんものね。

●最後に

 今回はあまりまとまりのない話になってしまいました。
 実はAcrobatの日本語プラグインがようやく次々と出揃い、その利用方法も実に多様化していて、事例がない私どもの現場ではあまり多くを語ることはできません。
 ただわかっていることは、PDFは出版の現場に今以上に間違いなく入り込んでくることでしょう。
 そしてその恩恵をこうむる人が、特定な企業や団体・個人だけでなく、利用するすべてのユーザであってほしいものだと願っています。
 さて次回は……PAGE99レポートか、はたまたマンガに関することなのか、だんだんくだけた内容になっていくかしれません。またお越しくだされば幸いです。

(1999/02/02草稿)

 上記のような文を2月初旬にまとめていたのですが、更新するタイミングがずいぶん遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
 この間、米国ではAcrobat 4.0の発表があり、日本ではWindows DTP関連の記事や雑誌がにぎわせていますね。

Copyright(c) 1999 Takashi Okada, Station S Co., Ltd. All rights reserved
本コラム内容の無断引用、転載を禁止します。

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