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写植の現場から
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 出版印刷業界の一員として、写植の日常の現場で何が起きているのか、何を追求していったらいいのかを模索し、ネットワークを広げていくための不定期コラムです。
 みなさまのご意見、ご感想をお寄せください。

集団DTP作業のディレクション

(株) Station S 出版企画部 岡田隆志

 ごぶさたしております。しばらくぶりのコラムです。
 「WindowsDTP PRESS Vol.8」(2000年8月発行・技術評論社)の「特集〜DTPの“組版”を考える」のなかで「写研組版とDTPに引き継ぐもの」の座談会に出席させていただき、未熟ながら発言してきました。
 月日の経つのは早いもので、気づいてみれば、私自身も写研のシステムで文字を組む仕事をしだしてから十数年も経っていて、新入社員から見ればベテランのオペレータです。書籍の文字組版に関しては実質的にどんな質問にも答え、判断し、決定していかなければならない立場にありますが、今でも学ぶべきことが大変多いです。
 専門校の講師をしていても教えるというよりも、実習を通して学ぶことのほうが多く、ここで得たPDF作成の技術や初心者向けのワークフローの作り方などは、実際の仕事にもフィードバックされています。
 また、通常の仕事を離れて個人的に作っている芸能ミニコミ誌も発行5年目にしてようやく陽の目を見るようになり、大手出版社から次々に取材を受け、注目度もずいぶんあがりました。
 今回のコラムはこれらの経験のなかで最近感じたことを書いてみようと思います。ちょっと堅苦しくなってしまいますがどうぞお許しを。

●WindowsDTP PRESSの補足

 「WindowsDTP PRESS Vol.8」の43ページの記述に若干の誤りがあるのでここで補足しておきます。
 『「字取り」は行長のこと』と書かれていますが、これは誤りです。行長のことは「字詰め」といい、字取りは字詰方向の任意の長さに文字を体裁良く収めるためのファンクション(組版指令コマンド)のことです。行取りも同じく行方向の任意の幅に文字を収めるためのファンクションのことを指します。言葉で説明すると難しいですが、基本中の基本なので間違えてほしくなかったです。
 44ページの図2にある、約物の組版体裁の解説にも誤りがあります。体裁制御1−134という組み合わせは選ぶことができません。日本語の伝統的な組版ルールに則れば行中の約物は[全]か[半]か[全〜半]であり、[全/半]という指定はナンセンスです。同様に行末に関して[全〜半]で処理すると、行末の約物が中途半端な位置になります。実際にこのファンクションを埋め込んで写研の組版機に流すと「体裁制御の入力方式に誤りがあります」と、見事にエラーが出ます。組版を考える特集でこういう間違いはしていただきたくなかったのですが、ミスを指摘できる人がいなかったのも残念でなりません。

●やっぱりワークフロー

 以前、このコラムで「DTPはワークフローであり、スキルは数である」と書きました。日常の仕事をこなしていくなかでその言葉の重みを痛感しています。
 写研以外のシステムで作られたデータをどうやって写研のシステムのなかに組み込んでいくのか、DTP的な製作工程をいかに分業していくか、いかに効率よく生産性を高めて事故の少ないワークフローを作り上げていくか、といったことを日常的に考え、実行し、改良を続けていかないと、集団DTP作業は成功しません。
 前回のコラムにあるように、DTPはある意味、非工業的なワークフローです。1セットのトータルシステムと少人数のデザイナー兼オペレータで運営するには理想的なのですが、規模が大きくなるにつれて生産性は落ちてきます。「なんでもできてしまう」ことがかえって全体の効率を下げることもあります。それぞれの工程に特化したスペシャリストが大量に均一の処理をしていったほうが実は生産性が高いのです。ですから、たとえば同じ文書内でも文字の修正、絵柄の修正、製版処理を同時にやるのではなくて工程ごと別々に進めていったほうが圧倒的に速いときもあります。どういった仕事内容に対してどういった分散処理をしていくかの判断力を養うためには、「数」はどうしても必要ですし、常にワークフローを意識し、日常的に改革していく作業が必要でしょう。
 集団DTP作業のポイントは前回のコラムに書いたとおり、仕事を標準化することだと思います。一人で全部やっていてはとても終わらないような仕事も、オペレータのスキルに合わせて分業していくことによって、多くの処理を可能にします。今度は「分業化」そのものがワークフローになっていくわけで、やはりDTPはワークフローだとつくづく感じるのです。

●スペシャリスト

 それぞれの工程のスペシャリストが職人技を発揮することが少なくなってしまった今、私たちにできることは何かといいますと、スペシャリストの技を学ぶことだと思います。ところがそのスペシャリストを探すことも今は大変なのかもしれません。DTPの隆盛とともにプリプレス工程はオープン化されたにもかかわらず、アナログ時代の技を学ぶ機会はあまりないのです。
 実際に仕事をしているなかでも組指定が以前に比べるとずさんになってきたような気がします。昔は、編集者やデザイナーが組指定紙だけですべての指定を行い、そのとおりに組むと大変美しい紙面ができあがったものです。最近の組指定紙のなかには文字も数えられない、造本設計もなりゆきまかせだったりしてがっかりさせられることもあります。それでも執筆者や編集者の意向を原稿や指定からくみ取って、レイアウトをしていきますが、それは組版業者の本来の仕事とはちょっと違うような気がします。
 これはプロが少なくなってきた一例ではありますが、プロの方もこれからプロになろうとしている方にも従来の印刷工程を学んでくだされば幸いです。私たちが生まれたころに現役の編集者だった方々が作るOB会報の組版をする機会があったのですが、その組版指定たるやまさしくプロの技と言えるもので、この一冊をやるだけで本当に勉強になりました。
 デザイナー・編集者と、組版・製版業者を結ぶのは、たった数枚の指定紙なのです。いわばその指定紙が「顔」です。私たちはその指定紙を読み、ゲラを出します。私たちにとってはそのゲラが「顔」です。実際に編集者やデザイナーとお会いすることはあまりありませんが、指定紙とゲラを通して実は目に見えない交流がたくさんあります。指定紙を見ながら、この編集者は仕事ができる人か、組版についてどのぐらい造詣が深いか、仕事歴何年ぐらいか、などということまでわかってしまいます。同じように私たちの出すゲラを見て、いろんなことが伝わっていることでしょう。仕事ができる優秀なオペレータだと評価されることを願っています。

●コラボレーション

 組版の仕事をしているなかで思ったことは、当たり前のことではあるのですが、いい本を作るためにはいろんな人の協力が必要だということです。それぞれの工程でのスペシャリストが減っているなかでクオリティを落とさずに完成度の高い印刷物を作るためには、足りない技術を補いあうべく話し合い、協力しあっていくことが必要だと痛切に感じます。
 編集サイドの人たちは従来のように造本設計からレイアウトまでこなすことができる人が減ってきているようですし、組版業者も職人肌のオペレータが活躍できる場は少なくなってきています。そんな現状のなかで、価格を下げることだけではなく品質を上げるために協力しあっていくことも文字文化を支えていくうえで大切になってくるでしょう。写研の文字を使った組版や製版については自信を持って相談に乗ることができますので、何かお力になれることがあればお問い合わせください。
 本当にきれいで美しい組版をしていくためには、デザイナー、編集者、組版屋がミーティングするのが理想なのですが、現実はなかなかそういうわけにはいきません。編集者やデザイナーの組版プランを真の意味で実現できるのは、当社のような組版専門業者しかないと思っていますが、それに本当にお応えできているのかについては残念ながら当事者までは届いてこないので、より一層精進していかなければなりませんね。
 ただ、仕事時間外ではいろんな立場の方々とお会いすることが多くなりました。そこでの雑談はとても勉強になりますし、自分がやっている仕事や、編集の仕事も自分が予想している以上の価値があることもわかってきました。
 堅苦しくなりましたが今回はこのへんで。残業は少なく(苦笑)して、お互いにいい印刷物を作っていきましょう。

(2000/10/14発表)
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本コラム内容の無断引用、転載を禁止します。

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